1 現在、国会で動物の愛護及び管理に関する法律(以下「動物愛護法」という)の改正が審議されている。その中で、動物実験に関する規制が同法の改正案に盛り込まれるかどうかが、焦点の一つとなっている。
その点に関する意見の中には、実験動物に関する法規制は、動物愛護法とは別の法律を作り、しかも動物の愛護を管轄する環境省の所管ではなく、医療関係を管轄する厚生労働省の所管とすべきである、とするものもあるようである。その趣旨は、動物実験を動物愛護法の規制から外すことにより、愛護動物としての保護を撤廃し、容易に行える現行の体制を墨守しようとすることにある。
2 しかし、動物実験は、意思も感情もある、尊厳のある生命を持った動物に対して、凄惨を極める生体実験を行ったあげくに、多くを殺害して終わるというものであり、万が一このような行為を行わなければならない場合があったとしても、厳格な規制の下に置くべきである。
なお、環境省は、動物実験は概ね適正に行われていると言う認識を持っているようであるが、その根拠は、平成23年6月に実施された「研究機関等における動物実験に係る体制整備の状況等に関する調査」という、国公立大学・独立行政法人向けに非常に簡単なアンケート(動物実験を行っているか、計画を承認・却下しているか、委員会を設けているかなど、簡単な10の質問。空欄に自由に意見を記入できるがほとんどの回答が「特になし」か無記入であった=情報開示請求結果より)等に基づくものに過ぎず、具体的な裏付けを欠くものである。寧ろ、動物実験が適正に行われていることは、全く証明されていないといわなければならない。このような現状では、「動物実験」に対する社会一般の理解を得ることは到底不可能であろう。
諸外国の実例を見ても、動物実験を行うことのできる者、実験施設、実験計画、実験動物の飼育施設等については、免許制や許可制を採用している例が多く、いわゆる先進国と言われている国々で、何らの規制も行っていないのは、日本国だけである。
3 一方、動物実験の内容は、人体に有害な薬物や微生物を用いる例も非常に多い。動物実験施設から外部にそのような薬物や微生物が漏出する可能性もある。災害時や事故発生時の不安は募るばかりである。従って、動物実験は、それが行われている施設の周辺に居住する住民の人権に大きく関わることになり、当該施設で行われている実験の内容を把握することは、それら周辺住民の知る権利の内容を構成するということもできる。この場合、行政が動物実験施設、実験内容を把握し、住民に対して情報提供することは重要な意味がある。「自主管理」でなく、「行政管理」をこそ我々は求めるのである。
4 動物実験に関する法規制は、動物が尊重すべき生命ある存在であることを謳った、環境省管轄の動物愛護法の中で行われるべきであり、それとは別個の、容易に動物実験を行えるような法律で規制することは絶対に行ってはならない。動物実験を行うことが出来る者、施設、実験動物の飼育施設、及び個々の実験等については、先進諸国と同様に許可制とすべきである。そして、その許可は、独立した第三者機関によってなされるべきである。
5 なお、動物実験に関する上記のような意見は、これまで漫然と且つ平然と動物実験を行ってきた医学者等の学者、製薬会社、及びそれらの機関に実験動物を供給していた業者等の利益を代弁して出されているものである。しかし、動物たちがかけがえのない生命を持った存在であることは、現代の文明社会に共通した認識であり、そのような学者や業者らも、自らの不明を猛省すべきである。
また、動物実験に厳格な規制をかけると医学の進歩が阻害されるとか、製造業に国際競争力が失われると言った懸念が騙られることがある。これはまさに騙りであり、寧ろ、動物実験の代替措置を真剣に模索することにより、より医学も科学も事業も大いに進歩することになるであろう。
当ネットワークは、動物の福祉向上を目的とする団体であるが、動物には当然、実験動物も含まれる。実験動物を生きる権利の主体として扱うべきである。実験動物の福祉向上は、真の科学であればその進歩と調和するはずだ。論文の数を競い業績をあげるため動物実験を行うことは許されない。研究者らに科研費を与える口実として動物実験が存在してはならない。繁殖業者・実験器具メーカーの利潤追求のために動物実験の規制を緩める、ということはあってはならない。それこそ偽りの科学であり人間をも害するだろう。
6 最後に一言すると、この度の日本政府における、上記のような改正作業の手順が著しく不誠実であり、欺瞞的である。
これまで数年にわたり、動物実験に関しては、環境省に設置された中央環境審議会動物愛護部会動物愛護管理のあり方検討小委員会において、動物愛護法の改正という枠組みの中で審議を重ねられてきたものである。ところが、動物実験に関する部分については、土壇場に来て、突然に、別の省庁が管轄する、別個の法律に委ねられる可能性が、しかも多くの国民の目から離れた密室で出てきたものであるが、その政府のやり方は世論、パブリックコメントに願いを寄せた多くの国民の思いを裏切る行為であり、その手口の不誠実さ、悪辣さは極まりない。もし、この度のような動物実験を動物愛護法と別個の法律に委ねることにしたいのであれば、まずその草案を国民に示し、その草案について改めて国民のパブリックコメントを求め、広く多くの国民の議論を求めるべきであった。それが成熟した民主主義国家のあり方である。
光の当たるところで堂々と議論せよ。徹底的に議論し尽くせよ。正しい科学であればそれを訴えよ。国民の前にさらけ出せ。