毎年11月に開催されるペット法塾主催の大阪シンポジウムに今年も出席してまいりました。
ANJとしては「ノネコに関する考察」と「被災動物の問題」を発表させて頂きました。
以下、THEペット法塾HPよりシンポジウムの記事を転載させて頂きます。
シンポジウムは大きな成功でした。参加者からは、時間が短すぎたとの声もありましたが非常によかったとの声が多く聞かれました。
皆様には大変なご苦労をおかけして有り難うございました。
150名の会場でしたが200名余りは出席があると思っていたところ約120名から130名の出席者であったのが残念でした。
内容は報告者、全国からのパネラーの皆様の内容が充実していましたが、地元地域の参加者が少なく力弱さを感じました。現場の報告と、地域猫の問題の全貌が明らかとなりました。
現在、地域猫が成功するか、元の殺す行政に戻るかが瀬戸際です。今回の集会は、生かす行政、猫餌やり、地域猫、やむなく引き取った動物について今後の動物を生かすシェルターや社会のあり方に向かっての、基本的な枠組みと指針の基礎が出来たと思います。
この基本指針に沿って社会システム、法制度を創る共通認識が出来ました。今後の皆様には、この活動の基本方向で活動を進めて頂きたいと思います。
今回の集会宣言を次に紹介します。
◆「野良猫は地域猫である」・閉会宣言◆
平成26年11月1日動物交流集会のご案内チラシを添付いたします。
◆平成26年11月1日動物交流集会案内チラシ◆
「野良猫は全て地域猫である」-現場からの報告と今後の活動の方向-
行政関係者、動物救済活動の団体、個人、その他関係者の皆様
THEペット法塾代表 弁護士 植田勝博
電話06-6362-8177、FAX06-6362-8178
THEペット法塾では、現在、全国で問題となっている、「野良犬猫の命」の保護と現行法制度の推進をするため
に、下記の通り、「2014 動物法交流会・シンポジウム」を開催いたします。
行政、現場の動物救済活動をする皆様などをお招きをして、全国に呼びかけて、野良猫の取扱いや、保護の現場の
実態、行政、地域の取組の状況、全国に発生する事件の報告を頂き、改正法の実現に向けての今後の推進のあり方の
シンポジウムを開催致します。
改正法に沿った動物行政を実現するために全国の多くの皆様のご参加をお願いいたします。
主 催 THEペット法塾、後援:動物法ニュース
開催場所 ドーンセンター(大阪・天満橋徒歩5分)
開催日時 平成26年11月1日 午後12時30分~4時30分
受 付 午後12時00分
交流会開始 午後12時30分~午後3時
シンポジウム開始 午後3時~午後4時30分
(報告者の皆様の会場集合 午前11時)
内容:行政、猫餌やり問題、被災動物、地域猫、遺失動物、動物遺棄、法制度など
参加費 1000円(資料代を含む)
(交流会終了後、近くで懇親会予定(費用別途) 午後5時~午後7時)
* 申込方法
会場が150名と狭いので、当日参加も受付けますが、事前にお申込を頂いた方には席をご用意致します。
申込は、お名前、ご住所、ご連絡先(電話、E-mail)をご明記の上、
件名「平成26年11月1日交流会申込」
FAXは06-6362-8178(植田法律事務所)、メールuedalaw@skyblue.ocn.ne.jp
併せて、懇親会のご出欠もご記入ください。
動物愛護法上の「猫」と鳥獣保護法上の「ノネコ」について
2014.10.19(11.2一部改訂)
弁護士 坂本博之
1 はじめに
現在、「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下「動物愛護法」という)においては、「猫」は愛護動物とされている(44条4項1号)。一方、「鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律」(以下「鳥獣保護法」という)では、「ノネコ」は、狩猟鳥獣の一つとされている(2条3項、同法施行規則3条、別表第1)。この二つの法令の間に整合性があるのか、ないとすれば、どのように解釈すべきなのか、という問題がある。
なお、同様の問題は、動物愛護法上の「犬」と鳥獣保護法上の「ノイヌ」との間にも存在する。
2 動物愛護法の規定と鳥獣保護法の規定の内容
動物愛護法では、猫は愛護動物とされ、みだりに殺したり傷つけること、みだりに給餌・給水を止めたり、健康・安全を保持することが困難な場所に拘束して衰弱させたり、劣悪な環境で飼養する等の虐待を行うこと等は禁止されている(44条1項、2項)。
一方、鳥獣保護法では、ノネコは狩猟鳥獣とされているが、狩猟鳥獣とは、「その肉又は毛皮を利用する目的、生活環境、農林水産業又は生態系に係る被害を防止する目的その他の目的で捕獲等(捕獲又は殺傷をいう。以下同じ)の対象」とされている(2条3項)。同法では、法定猟法(2条2項、同法施行規則2条)による狩猟鳥獣の捕獲を狩猟という(2条4項)とされている。
原則として、狩猟鳥獣を含めた鳥獣の捕獲(法定猟法による捕獲)には、環境大臣又は都道府県知事の許可が必要とされている(9条1項)。但し、休猟区、生態系の保護区域など以外の「狩猟可能区域」において、狩猟期間内においては、一定の場合には、環境大臣や都道府県知事の許可を得ないで、狩猟鳥獣の捕獲等を行うことができる、とされている。鳥獣保護法の規定は複雑で分かりにくいが、次のような場合ということになるものと思われる。
ア 狩猟免許を受けた者が、狩猟をしようとする区域を管轄する都道府県知事の登録を受けて行う場合(11条1項1号、12条、14条~17条、第4章第1節~第3節[35条~67条])
イ 農業又は林業の事業活動に伴い捕獲等をすることがやむを得ない鳥獣の捕獲等を行う場合(13条1項)。捕獲等を行うことができる鳥獣は、鳥獣保護法施行規則12条に規定されている(哺乳類ではモグラ科全種とネズミ科全種)。なおこの場合は、都道府県知事に対する狩猟登録が必要とされる(55条1項但書)
ウ 危険猟法による鳥獣の捕獲を行おうとする者が、①環境大臣の許可を受けて行う場合(11条1項2号イ、12条、14条~17条、36条、37条)、又は②農業又は林業の事業活動に伴い捕獲等をすることがやむを得ない鳥獣の捕獲等を行う場合(11条1項2号イ、12条、14条~17条、36条、13条1項)。なおこれらの場合は、都道府県知事に対する狩猟登録が必要とされる(55条1項)。
エ 垣、柵その他これに類するもので囲まれた住宅の敷地内で銃器を使用しないで狩猟鳥獣の捕獲を行う場合(11条1項2号ロ、12条、14条~17条、36条、37条)。なおこの場合は、都道府県知事に対する狩猟登録は必要とされない(55条1項但書)。
以上のような鳥獣保護法の規定に従うと、狩猟免許を受けた者であるとか、狩猟免許を受けない者であっても、住宅の敷地内で行う場合は、ノネコの捕獲等を行うことができる、というように読める。
3 動物愛護法と鳥獣保護法の制定過程
動物愛護法と鳥獣保護法の制定過程を俯瞰してみたい。
動物愛護法、鳥獣保護法には、それぞれ、「動物の保護及び管理に関する法律」(以下「動物保護管理法」という)、「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」(以下「狩猟法」という)という前身があった。時系列的に見れば、後者の方がはるかに古い法律である。
狩猟法は、大正7年4月4日に制定され(同日法律第32号)、数回の改正を経て、平成11年12月22日に最終改正がなされた(同日法律第160号)。その後、平成14年7月12日に全面改正がなされ、鳥獣保護法が制定された(同日法律第88号)。
狩猟法の最終改正版を見ると、1条の5第2項に「狩猟鳥獣ノ種類ハ環境大臣之ヲ定ム」と規定されている。ところが、この狩猟法を踏まえて制定されているはずの狩猟法施行規則(昭和25年9月30日農林省令第108号)の最終改正版には、狩猟鳥獣の種類に関する規定はない。一方、狩猟法の昭和25年5月31日改正の際の附則第2項を見ると、「この法律施行の際現に狩猟鳥獣として定められているものは、改正後の第1条第2項及び第4項の規定により定められた狩猟鳥獣とみなす」という規定がある(狩猟法の条文は何度かの改正を経て、狩猟鳥獣に関する条文が繰り下がって、元々1条2項だったものが、その後1条の5第2項になったものと思われる)。狩猟法施行規則の改正過程には不明瞭な点があり、よく分からない点が多いが、狩猟法が制定された翌年、同施行規則は、大正8年農商務省令第28号として制定された。同施行規則第1条に狩猟鳥獣の定めがあり、そこでは、狩猟鳥獣のうち、獣類に関しては、「獣類各種(かもしか、牝いたち、かはうそ、やまねこ、さる及牝じかヲ除ク」と定められていたようである。即ち、一定の種類の動物以外は全て狩猟鳥獣とする、という定め方であった。そして、昭和24年10月1日に同施行規則が改正され、上記狩猟鳥獣のうちの獣類に関する規定は、「くま類、いのしし、牡じか、きつね、たぬき、あなぐま、てん、りす類、牡いたち、むささび、のうさぎ、のねこ、のいぬ」と改められた。即ち、従前の定め方とは逆に、一定の種類の動物だけを狩猟鳥獣と定め、それ以外の狩猟を禁ずる、という定め方に変わったのである。従って、ノネコ、ノイヌが狩猟鳥獣として定められたのはこの時であったと思われる(ただ、昭和25年9月30日農林省令第108号として制定された狩猟法施行規則の附則第1項には、それまでの狩猟法施行規則[大正8年農商務省令第28号]は廃止する、と規定されている。従って、昭和25年に新狩猟法施行規則が制定されて以降の狩猟鳥獣の定めがどうなったのかは、不明である)。
そして、現在の鳥獣保護法を踏まえて、平成14年12月26日、鳥獣保護法施行規則が制定され(同日環境省令第28号)、平成15年4月16日から施行された(この日は、鳥獣保護法の施行日でもある)。既に述べたとおり、この施行規則の別表第1に定められた狩猟鳥獣の中に、「ノネコ」「ノイヌ」という規定がある。
因みに「ノネコ」に関しては、過去に、第43回国会・衆議院農林水産委員会(昭和38年3月12日)において、議論がなされているが、その時、政府側の説明者・若江則忠(当時、林野庁指導部長)が、「たしか昭和22年に狩猟鳥獣に加えたというふうに考えております」という答弁を行っている。しかし、この答弁は、上記の狩猟法施行規則の制定過程に照らしてみれば、誤りであったことが明らかである。
一方、動物保護管理法は、昭和48年10月1日に制定されたものであり(同日法律第105号)、同法13条2項1号に、「保護動物」という規定が設けられており、その中に「ねこ」「犬」も含まれている。また、犬やねこは、牛や馬等のいわゆる家畜動物と同様に、人が占有しているか否かを問わず、保護動物とされた(13条2項1号、2号)。動物保護管理法も何度かの改正を経た後、平成11年12月22日に大改正があり、名称も動物愛護法と改称された(同日法律第221号)。
以上のような法令の制定過程を見ると、わが国では、ノネコ、ノイヌを狩猟鳥獣としてきた法制度の後で、人が占有しているか否かを問わない猫・犬の、保護動物としての保護制度を作ったものということができる。
4 ノネコとは何か
鳥獣保護法2条1項に、「この法律において「鳥獣」とは、鳥類又は哺乳類に属する野生動物をいう」と規定されている。従って、鳥獣保護法で狩猟鳥獣とされているノネコ、ノイヌは、野生動物であるということになる。
鳥獣保護法施行規則別表第1において、ノネコは、「二 哺乳綱 (一)ねこ目」という個所で、「ねこ科」の中に「ノネコ(フェリス・カトゥス)」と規定されている(ノイヌは、同じく「ねこ目」の箇所で、「いぬ科」の中で「ノイヌ(カニス・ファミリアリス)」とされている)。括弧内に記載された呼称は、学名である、とされている(同別表第1の備考欄)。
フェリス・カトゥス(Felis catus)というのは、旧来、イエネコに対して用いられていた学名であり、生物学上、ノネコという種類の動物はいない(ノイヌについても同様である)。生物学的に、ノネコと人に飼われているイエネコを区別することはできないし、Felis catusと言った場合、それは人に飼われているイエネコも含まれてしまう。狩猟鳥獣とされている鳥獣の中で、学名を以て指定されている種の中に、狩猟鳥獣であるものとないものとが含まれることになってしまうような特別なものは、ノネコとノイヌだけである。
ところで、現在、イエネコは、ヤマネコ(Felis silvestris)の中の一亜種であるとされることがあるが(Felis silvestiris catus)、独立した種とはされていない。またイエネコは、リビアヤマネコ(Felis silvestris lybica)から約1万年前に家畜化され、分化したものであり、生物学的にはリビアヤマネコと亜種の差もないとされるべきである。この点で、鳥獣保護法施行規則の規定は、生物学的に見ると不正確であり、そこで指定されているノネコという種の動物はいない、ということもできる。
わが国には、上記のヤマネコ(2007年に発表されたゲノム解析によると、ヤマネコには、ヨーロッパヤマネコFelis silvestiris silvestris、リビアヤマネコF.s. lybica、ステップヤマネコF.s. ornata、ミナミアフリカヤマネコF.s. cafra、ハイイロネコF.s. bietiの5亜種がいるとされている)は生息していないから、日本在来の野生動物としてのノネコというものは存在しない(一方、イヌは、現在、ハイイロオオカミCanis lupusの亜種Canis lupus familialis とされることが多いようである。わが国には、在来の野生の犬である、ヤマイヌ=ニホンオオカミCanis lupus hodophilaxが未だいる可能性がある)。なお、わが国には、ツシマヤマネコPrionailurus bengalensis euptilurus、イリオモテヤマネコP.b.iriomotensisというヤマネコがいるが、これは、上記のヤマネコとは属のレベルで異なる動物であり、当然、狩猟鳥獣としてのノネコには含まれない。
それでは、野生動物としてのノネコ、ノイヌというのは、どのようなものであるか。ノネコ、ノイヌというのは、ノラ猫、ノラ犬とは異なったものであると考えられているようである。この点、先述した昭和38年の衆議院農林水産委員会での若江農林技官は、「元来は家畜でございましたものが野生化いたしまして山野に自生いたしまして、野山におるというのを」ノラ犬、ノラ猫と区別してノイヌ、ノネコという、と述べている。また、同農林技官の説明によると、ノイヌ・ノネコとノラ犬・ノラ猫との区別は、「判別が非常に困難であろうかと思いますが、医学的に胃袋その他を検査して、食性の種類等で判別しなければならぬのではないか」などと述べている。また、同農林技官は、東京都下にノネコはいない、などとも述べている。
昭和38年当時の国の見解では、要するに、ノネコとは、山野で自活し、人間の生活環境の外で生活する猫をいうということになるのではないかと思われる。
わが国において猫には、人間との係わりという観点から区別すると、抽象的には、①人間に飼われている飼い猫、②人間に飼われてはいないが餌を与えられているなど、人間が関与している猫(地域猫などがこれに含まれる。また、所謂加藤裁判判決では、このタイプの猫が加藤氏の飼い猫であるという判断をされているが、この判断は正しいとは思われない)、③人間に飼われているとは言えないが、人間の生活から排出されるゴミ等に依存して生活している猫、④人間の生活に全く依存していない猫、に区分することが可能であろうと思われる。このうち、④がノネコに該当するものと思われる。また、一般に②③がノラ猫と言われるものである。しかし、実際は、上記の①~④のどれに該当するのか判別するのが困難なことも多いし、ある人が飼っている猫が別の人の家の庭に出入りして餌をもらっていることもあり(①と②との両方に該当する)、人間の与えるエサも食べるし、ゴミもあさるという猫(②と③の両方に該当する可能性がある)や、ゴミもあさるし、ネズミやトカゲも捕るという猫(③と④の両方に該当する可能性がある)もいるのであり、飼い猫なのかノラ猫なのかノネコなのか、判断することが非常に困難である。しかも、犬の場合は、殆どの場合、飼い犬=人が所有している犬ということになると思われるが、猫は犬と違い、飼われている猫でも家から出入り自由になっていることもあって、飼い猫は必ずしも買主の所有と言えない場合もある(例えば、ある人が飼っている猫が別の家に上り込んで餌をもらっているような場合、いわゆる外飼いをしていて餌の時間以外はどこに行っているか飼い主も分からないことが多いような場合等)。
このように、猫は、生活の実態からみても、人間との係わり、人間の所有権という観点から見ても、完全な野生の猫であるかどうかを判別することは著しく困難である。
つまるところ、わが国では、少なくとも北海道、本州、四国、九州及びその周辺の有人島においては、全く人間の生活環境の外で生活している猫というのは殆ど想定し難いように思われる。結局、ノネコというのは、実際には、無人島で自活しているような猫以外には考えられないのではないかと思われる。
5 鳥獣保護法と動物愛護法の整合的な解釈
そこで、鳥獣保護法上のノネコと動物愛護法上の猫を、どのように解釈すべきか。
第一に考えなければいけないことは、動物保護管理法の時代から、動物愛護法上の猫は、人が占有しているか否かを問わないとされていることである。そして、鳥獣保護法上のノネコと、動物愛護法上の猫は、生物学的には同一種の動物である。従って、動物愛護法上の猫は、野生の猫も当然に含んでいるものと解される。即ち、鳥獣保護法上のノネコであっても、みだりに殺傷したり虐待してはならない、ということになる。
次に、鳥獣保護法の規定に従ってノネコを狩猟することは、法律で規定された例外であり、動物愛護法に規定された「みだりに殺傷する」に該当しないのではないか、という問題がある。
この点、動物愛護法の前身である動物保護管理法は、鳥獣保護法の前身である狩猟法よりも後で制定された法律である。そして、前記の昭和38年の衆議院・農林水産委員会で、若江農林技官は、同年における狩猟法の改正において、狩猟鳥獣であるノネコ・ノイヌと狩猟鳥獣ではないノラ猫・ノラ犬の区別が非常に困難であるという認識を示しつつ、従前の狩猟鳥獣から「これを外すという特段の理由もありませんので、従前通り入れて参りたい」と述べているのである。ところが、その後、昭和48年に動物保護管理法が制定されるに至る。この時点で、ノネコ・ノイヌも保護動物となったのであるから、狩猟鳥獣から除外すべき「特段の理由」が明確になったものということができる。この時点で、狩猟法上の狩猟鳥獣としてのノネコ・ノイヌに関する部分は死文となったものと解するのが相当であろう。
ところがその後、国は、平成14年に鳥獣保護法施行規則を制定し、その中に狩猟鳥獣としてノネコ・ノイヌを残してしまった。この点をどう考えるべきか。この時の鳥獣保護法の改正が議論されたのは、第154回国会の、衆議院、参議院の各環境委員会であるが、これらの委員会において、ノネコ・ノイヌの問題が議論された形跡は殆どない。従って、現行の鳥獣保護法施行規則は、従前の狩猟鳥獣を漫然と残してしまっている可能性が高く、合理性に欠けるものということができる。
前述のとおり、鳥獣保護法2条3項は、狩猟鳥獣とは、「その肉又は毛皮を利用する目的、生活環境、農林水産業又は生態系に係る被害を防止する目的その他の目的で捕獲等(捕獲又は殺傷をいう。以下同じ)の対象」となる鳥獣と規定している。現在の我が国において、猫や犬が「その肉や毛皮を利用する目的」とされることはまず考えられないし(わが国では、三味線用に猫や犬の皮が用いられることがあるが、野生の猫や犬の皮は傷が多くて使い物にならないものと思われる上、狩猟によって捕獲した猫や犬の皮はさらに傷が多くて使い物にならないであろう)、農林水産業に被害を及ぼすこともないと考えられる。人間の生活環境に影響を及ぼす可能性のある場合はあり得るかもしれないが、そのような影響を及ぼすのはノネコ・ノイヌではなく、狩猟鳥獣ではないノラ猫・ノラ犬に他ならない。人間の生活圏と関係を持っているということになるからである。
唯一、生態系に係る被害の防止というのが、ノネコ、ノイヌを狩猟の対象とする目的として現在の我が国でも意義を持っている可能性がある。現に、沖縄県の山原(やんばる)や、東京都の小笠原諸島等では生態系保護のためのノネコの駆除が行われているようである。しかし、このような駆除をされるノネコ、ノイヌの頭数は、現在では100頭に満たないものであり、猟銃で撃つ必要はないし、捕獲した後に殺処分をする必要もない。従って、この観点からノネコ・ノイヌを狩猟鳥獣としておく必要性は全くない(この点、ドイツでは、ノラ猫、ノラ犬が狩猟者による駆除の対象となっているという例もあるようである。しかし、ドイツでは、都市の周囲に大規模なグリーンベルトが設けられ、森林の生態系が保護されてきた経緯があるし、野生動物の狩猟についてもわが国とは事情が異なる。また、ヨーロッパヤマネコという野生種が存在し、ヤマネコへの遺伝子の流入や伝染病の感染を考慮する必要があるヨーロッパ諸国とわが国とでは、野生生物の保護という観点からも事情が全く異なっている)。
従って、鳥獣保護法上の狩猟鳥獣としてのノネコ・ノイヌは、現在は死文となっているものと解されるべきである。そして、国は、速やかに、鳥獣保護施行規則からこの両者を削除すべきである。