8月6日、新評論から新刊が出ました。
「動物・人間・暴虐史」David
A.NIBERT著、新評論、3800円、訳者は井上太一さんです。
衝撃的な歴史解釈
歴史家の多くが無視してきた
暴力の伝統とその負の遺産。
人類発展史の暗部をえぐり出す警世の書。
(帯より)
著者は、ウイテンバーグ大学社会学教授、デヴィッド・ナイバート。
「人類史は暴力拡大の歴史」との解釈に基づいて、古代、中世、大航海時代、近世、現代に至るまでの世界史が、動物の搾取のみならず、人間への暴力という視点で、改めて捉え直されています。
人間がどこで道を踏み誤ったか。それは、貨幣経済の始まりでもなく、農業の誕生でもなく、動物利用の営為であった、と。健全な文明発展を妨げてきたのは、動物への体系的な搾取だった、と。
筆者の膨大な資料の裏付けにより、人間とは、なんて残虐な生き物であるのかを痛感します。
動物ばかりでなく、人に対してです。
原住民から土地を奪い、牛や豚を放つ。その牛や豚が、先住民のトウモロコシ畑を荒らす。反撃に出た先住民は入植者により残忍な仕方で皆殺しにされる。
こうして奪った土地で、広範な牧場経営を行う入植者は、先住民の生活や文化を壊し、命をも奪い、経済的にも配下に敷いていく。
牧場経営が暴力の装置であり、動物だけでなく人間を貶めていった。
ニュージーランド、アメリカ、アイルランド、ユーラシア、と、グローバルな視点で、そこで起こった動物と人への搾取が、史実に基づき明確に捉え直されています。
牧場といえば、青空の下、緑の草原がどこまでも広がり、牛や羊がのんびりと草を食む、風薫るブーコリカの世界である、との認識がありますが、そうしたイメージを覆す、牧場経営の実体です。そして、今の工場畜産では、牛も豚も、壁のなか。私たちは接触もできません。畜産動物は身動きとれない檻に入れられ、自由に草地を歩くことも許されないでいます。
動物への体系的な暴力は、先住民や遅れた入植者、社会的弱者に対しての差別や構造的搾取に繋がっています。飛躍してしまいますが、本書を読めば、イギリスにとってのアイルランドや、スペインにとってのパタゴニアがまさにそれであることがわかります。
動物搾取は、人間の搾取、人間に対する暴力に繋がっていきます。
アメリカ大陸、アフリカ、オセアニアその他の地域に暮らす先住民らは、いまだ物質的欠乏に悩んでいます。
かつては彼らが耕し、自給のために野菜を植えていた土地が、突然略奪され、資本家や入植者がもたらした牛豚の放牧に使われ、やがては牧場経営に取り込まれていきます。
女も子どもも年寄りも命を奪われ、生き残った先住民には、自分や共同体のために食べ物を作る土地を持ちません。
メディアを使って、世界的にファーストフードやハンバーガー文化が広まる。慢性疾患の流行。
毎年、550億を超す牛、鶏、豚のとさつ。環境破壊。何百万年にもわたり、自由に生きてきた野生動物が、たかだか1万年のうちに、人間に隷従し、絶滅しようとしています。
人類は、どうやって、これを乗り越えていけばよいのでしょうか。
絶望の書、ともいうべき内容ではあるのですが、未来を拓くために私たちがとるべき道も、ちゃんと、さいごに示されています。